「……ねみぃ」

最悪の寝覚めだった。
というより、ほとんど寝ていない。

修行僧じゃあるまいし、
現役グラドルと同じ布団で寝て、安眠できるわけがない。

一晩中ムラムラしっぱなしだった俺は、
ある意味、男の鏡だろう。

いや、危険日のグラドルを襲った方が男の鏡だったのか？

どちらにしても、欲求不満だ。
こういう時は、大人しくトイレで処理してきた方がいいんだろうか。

「あ……光明さん、おはようございますー」

「……おい」

「なんでしょう？」

「朝っぱらから、なんつー格好してるんだ、君は」

「ゆとり猫ですー」

「うるさいっ。その猫耳、稽古場の小道具だろ？」

「似合ってませんか？」

「似合ってるよ！　似合いすぎてんだよ！」

「ありがとうございますー」

ダメだ、見てると無性に襲いたくなる。
嫌がらせだろ、これ……

「あのー」

「こっち来んな」

「そんなこと言わないでほしいですニャー」

「こっ・ち・に・来・る・な！」

「……破局の危機ですか？」

「だーかーらー！　おっぱいくっつけてくんな！」

「かまってくださいー」

「……なあ、ゆとり」

「ゆとり猫です」

「どうでもいいんだよ、そんなの」

「顎の下を撫でると、ゴロゴロしますよ」

「…………」

「ほぉら、撫でたくなってきたっ」

「うがー！　だから、人の腕をおっぱいで挟むな！」

「面白いですねー」

「ニコニコすんな！　しかも猫耳つけて！」

「光明さん……猫、お好きなんですよね？」

「まあ、犬よりはな」

「ゆとり猫はご主人様に忠実ですよ？
　逆らったりしません。なんでも言うことを聞きます」

「じゃあ、おっぱいくっつけてくんな」

「イヤですっ」

「逆らいまくってるだろうがっ」

「猫は気まぐれですから」

「あー、もう！　君は何も分かってない！」

「何をですか？」

「あのな、危険日のグラビアアイドルが猫耳をつけるってのは、
　大変なことなんだぞ？」

「そうそう、実は危険日じゃありませんでした」

「なぬっ？　そうなのか？」

「はい。排卵日なので、
　排卵日のグラビアアイドルが猫耳をつけてるということに」

「余計、厄介な響きになってるだろうが！」

「そうなんですか？」

……頭と股間が痛い。

危険日や排卵日という響きは、男にとって特別だ。
異論は認めない。

排卵日、猫耳、グラビアアイドル。

仮に、そこへ『膣内射精』のキーワードが加わるとしよう。

簡単な作文問題だ。

『排卵日で、猫耳つけたグラビアアイドルに膣内射精』

無力だ。

この響きの前には、男なんて無力。

そのぐらい厄介な状況だということを、
ゆとりは全く分かってない。

「いいか？
　排卵日のグラビアアイドルがそんな格好をしてるとなあ」

「ふにゃ？」

「こんなことになるんだよ！」

「…………」

静まりかえる室内。
そして、ズボンを脱いで仁王立ちする俺。

「分かったか！」

「おにんにん、おっきしてますー」

「おっき言うな！」

朝から下半身露出して、俺もつくづく変態だ。

「でも、おヘソまで反り返ってますよ？」

「どうだ、男らしいだろう？」

「すごく無様ですー」

「やかましい！　誰のせいでこうなってると思ってるんだっ」

「そんなに猫が好きなんですね……」

「猫で勃起してるわけじゃないんだよっ」

必死になればなるほど、マジで無様だ。

「……なかなか小さくなりません」

「なあ。わざとそうやって、俺の腕をおっぱいで挟んでるだろ？」

「これはゆとり猫の愛情表現ですよ？」

「他の表現に変えてくれ」

「…………」

「考えてるふりして、何も考えてないだろ？」

「ちゃんと考えてますよー。そして思いつきました」

「ほぉ」

「光明さん、ちょっとここで横になってくれますか？」

「ここって、ソファーにか？」

「ですニャー♪」

「その中途半端な猫語やめろ」

「ゆとり猫語です」

「どうでもいいわ、そんなの」

ぼやきつつ、言われた通りにソファーの上で仰向けになる。

「これでいいのか？」

「んしょ、んしょ……」

「なっ！？」

「わ、わ、飛び出していっちゃダメニャっ」

「何やってんだ、君はーーーーーーーーッ！」

「……？」

「きょとんとすんな！　君はなんつーことを……」

「？？？」

「その、私は何も悪いことしてませ〜んな顔やめろ」

「……人間の言葉は分からないニャ」

どうしようもないな、この排卵猫耳娘は。